フリーランスになって一年目のことです。
クラウドソーシングサイトを利用して片っ端から、案件を応募、面談/打ち合わせをしていた時期がありました。
数打ちゃ当たるだろう的な考え方です。
その時期に、受注した案件について書こうと思います。
この案件、悪質なクライアントで、結果的に、報酬をお支払いいただけませんでした。
(クライアントからの報酬不払い、あるいは、報酬支払いの際に揉めた経験のあるフリーランスの方は少なくないと思います。)
もっとも、被害に遭う時は、被害に遭ってから気づくものだと、今でこそ思います。
後から振り返ってみると、あれがターニングポイントだったなと、冷静に思うものです。
確かに、この発注者は、不可思議な行動を取っていました。
発注者は、50代後半の恰幅の良い男性でした。
個人ではなく法人の方でした。法人といっても、従業員はおらず、一人で活動をしているとお聞きしました。
場所は千葉です。
コワーキングスペースのオープンスペースに向かい合って腰を下ろし、今回の案件についての打ち合わせをしました。
PHP(fuelphp)の業務系システムの開発案件でした。
既存システムに新規機能の追加実装を行う必要があり、それの仕様の詳細についての打ち合わせは淡々と進んでいきました。
ここまで、特に違和感はありませんでした。
1時間くらい経った頃です。
打ち合わせは終了に近づき、散会の様相を呈してきたあたりで、打ち合わせ机の隣に誰かの影がありました。
50代前後くらいの男性でした。
こちらは、眼鏡を掛けたひ弱そうな形で、いかにもステレオタイプ的なエンジニアに見えました。
私は、ふと、このコワーキングスペースの管理人かと思いましたが、どうも、そんな様子ではありませんでした。
アラフィフ眼鏡男は、発注者に対して、間近にいるにも関わらず、わざとらしく覗き込むようにして顔を近づけました。
私は、次に発注者の知り合いだろうと考えていました。
だが、次の瞬間、
「お前……こんなところにいやがったか」
アラフィフ眼鏡男が、50代メタボ男に掴みかかり、途端に、喧嘩になりました。
互いに胸ぐらを掴み合いながら、動物のようにでかい声を出して、威圧し合う二人の50男に、私はたじろぎました。
例えば、街中で、通行人がすれ違う際に肩がぶつかり
「お前…この野郎」
なら、ロジック的に理解はできるのですが、
前後の文脈なしで、喧嘩がおっぱじまると、人間は混乱します。
わずかな文脈が見えたのは、アラフィフ眼鏡男が発言した、
「いつになったら金払うんだよ」
と科白でした。
程なくして、
コワーキングスペースの管理人が止めに入りました。
アラフィフ眼鏡男は、なだめられながら、バックエンドに連れて行かれました。
私と発注者が取り残されました。
そして、発注者は、椅子に座り、先ほどの打ち合わせの続きである案件の仕様について、何事もなかったかのように、話しを続けようとしました。
私は、ごく自然な反応として、
「あれ、何だったんですか」
と聞きました。
すると、
「ああ、あれ?何でもない」
と答えました。
何でもない……
………………
そんな訳はないですよね。
いきなり、喧嘩がおっぱじまって…………
その時は、案件を受注できた喜びの方が勝り、
この不思議な出来事を見なかったことにして、
案件の作業に着手しました。
作業が完了し、プログラム一式を納品しました。
すると、料金を踏み倒されました。
私が作成した成果物は、持ち逃げされてしまいました。。(哀)
後から考えてみれば、あの喧嘩が、ターニングポイントだったと思います。
あの喧嘩に違和感を感じていれば、このクソ案件を受注することはなかったはずです。
ちなみに後日談として、
この千葉のコワーキングスペースで作業をしていたら、
発注者と喧嘩をしたあのアラフィフ眼鏡男を、お見かけました。
世界は狭いな、と思いました。
私から、声を掛けさせていただきました。
すると、あの喧嘩の謎が解けました。
この御方、個人事業主で、かつて、発注者と契約をしていたようです。
この発注者から案件を受注し、対応して納品をしたが、お金を払わず連絡が付かなくなったとのことでした。
って、これ、私と同じだよ。
つまり、この発注者、フリーランスに対して、不払い行為を繰り返している、どうしようもないクライアントだったということです。
それに、引っかかってしまったという話です。
あのターニングポイントさえ、気づけていればと悔やまれます。
(不払いの手口については、機会があれば、書きたいと思います。)