生成AIの普及により、エンジニアの多くがChatGPTやClaude Codeを活用してコードを書く時代になりました。
そんな中、「AIがあるから、もう誰でもプログラムを書ける」と言い出す人が現れ始めています。実際、私も、このような事を言う人と出会いました。
しかし、私は(少なくとも現状のAIの精度では)「誰でもプログラミングできる」は言い過ぎだと考えています。
本記事では、実際に私が現場で目の当たりにした体験談をもとに、その理由をお伝えします。
目次
【体験談】AI全頼りの新人エンジニアと仕事をした
以前、あるSES企業と仕事をしたときのことです。
SES業界では、未経験者を積極的に採用する企業が少なくありません。本来、エンジニアとは特定の技術的スキルを保有している人材を指しますが、SESではスキルシートを偽装してでもプロジェクトに人員を投入し、人月単価で収益を確保できるという構造的な問題があります。
そのプロジェクトに、あるエンジニアが配属されてきました。
スキルを聞く限り、それなりの経験を持つエンジニアのようでした。
業務内容は、Ruby on RailsによるAPIの、設計・プログラミング・テストです。
難易度は、高くありません。
レビューで露わになった「致命的な問題」
今の時代、コードを書いたり、ドキュメントをまとめたりするのに、ChatGPTやClaude Codeなどの生成AIを使うのは必須です。
このプロジェクトでも、皆、当然のようにこれらのAIツールを使っていました。
レビューの担当者は、私です。
もちろん、途中参画されたエンジニアのコードもレビューをしました。
最初のうちは、コードもドキュメントもそれなりに形になっていたため、大きな違和感はありませんでした。
しかし、詳しく内容を確認していくうちに、次第に「何かがおかしい」と感じ始めました。
そして、質問を重ねるうちに、ある事実が浮かび上がってきました。
彼は、実は未経験の新人エンジニアだったのです。
未経験の彼は、AIに作らせたプログラムやドキュメントの内容を、一切理解できていなかったのです。
プログラムについて質問しても、「何も答えられない」のです。
質問をしても、何も回答が返ってきません。
しばらくすると、長文の回答が返ってきます。
それは、私の質問をそのままAIに投げて、AIが返してきた回答を、そのまま私に伝えてくるのです。
その繰り返しです。
AIが書いたコードやドキュメントは非常に読みにくく、修正や指摘のたびに手戻りが発生しました。
エンジニア自身が理解しないまま、AIに修正依頼を出して、出来上がったものも、また、エンジニア自身が理解しないまま、レビュアーに提出する…
エンジニアは、何も理解できていない…
AIが作る成果物の精度も高まらない…
AIは万能ではありません。ときに事実と異なる出力をし、文脈を読み違えることもあります。それを判断・修正できるのは、あくまで「理解している人間」だけです。
理解のないまま量産されるコードは、いわば「AIが生成したゴミ」です。
それをレビューする側の負担は、想像以上に重く、プロジェクト全体の生産性をじわじわと蝕んでいきました。
成長ゼロのまま、AIに聞き続けた末路
プロジェクトは進み、3ヶ月が過ぎました。
しかし、彼のスタンスは変わりませんでした。分からないことがあれば、すべてAIに聞く。
AIの回答をそのまま使う。
理解しようとしない。
いつしか、彼は「自分が一体何をやっているのか、最初から最後まで理解できていない」状態になっていました。
そして進捗が出ないまま、彼はプロジェクトから、切られました。
自分が何をやっていたのかも分からないまま…
もしかしたら、自分が契約終了した理由もAIに尋ねてたかもしれませんね。
そもそも、こういう人材を採用した人事にも問題があります。
「AIがあるから、今の時代、誰でもプログラムを書ける」——そう豪語していた 中小SES企業の代表兼人事の方は、あまりの惨状に閉口してしまっていました。
どこからこんな逸材を見つけてきたのか、今でも謎です。
AIに置き換えられた人間
レビューを重ねながら、私はあることに気づきました。
このやり取りの構造を整理すると、こうなります。
私 ⇔ 新人 ⇔ AI(新人が使用)
つまり、私が質問する → 新人がAIに投げる → AIの回答を新人が私に伝える。
新人は、いわば「中継役」に過ぎません。
であれば、こう思わずにはいられませんでした。
むしろ、こうすれば良かっただけの話です。
私 ⇔ AI(私が使用。精度の高いもの)
間に人を挟むことで、伝言ゲームのように情報が劣化し、回答の精度も下がり、時間も無駄になる。
「AIを使える人間」と「AIに使われる人間」の間には、こんなにも大きな差があるのだと、改めて実感した瞬間でした。
無知がAIを使うと、ますます「無知」になっていく
この体験を通じて、私はひとつの構造的な問題に気づきました。
未経験者とか新人とか、知識が少ない人がAIを使うと、理解が深まらなくなる、という悪循環です。
流れを整理するとこうなります。
↓
AIに聞く
↓
AIが答えを出してくれる
↓
その回答の意味も、よく分からない
↓
また、AIに聞く
↓
また、答えが返ってくる
↓
やっぱり、よく分からない
↓
繰り返し…
この過程において、分からないのならAI以外の別の方法で調べなよ…と思われるのは自然ですが、そもそも、自分自身、何が分からないのかすら整理できていない状態なのです。
それゆえに、本人にとっては、「AIに聞く」以外に術がありません。
しかし、AIはどれだけ質問を重ねても、本人が理解していないことを「理解させてくれる存在」ではありません。
答えをもらっても、その答えを咀嚼する土台がなければ、何も積み上がらないのです。
むしろ、「AIに聞けばなんとかなる」という感覚だけが強化されていき、
自分の頭で考えようとする力が、じわじわと失われていきます。
その結果、彼はどうなったか——前述の体験談の通りです。
無知のままAIを使い続けると、無知がさらに加速する。
これが、AI時代における新たな「落とし穴」だと、私は現場で実感しました。
AI登場以前と以後——エンジニアの「成長プロセス」はどう変わったか
これは決して「AIが悪い」ということではありません。問題は、AIとの向き合い方にあります。
AI登場以前の新人エンジニアは、こうして成長していました。
【AI以前の成長プロセス】
分からない → 自分で調べる or 先輩に聞く → 「理解」する → 成長
この「理解する」というプロセスこそが、エンジニアとしての地力を作っていました。
ところが、AIが登場してからは、話が変わってきました。
【AI以後の落とし穴パターン】
分からない → AIに聞く → 「理解せずに」使う → その場はしのげる → 身にならない
その場の問題はAIが解決してくれます。しかし、「なぜそうなるのか」という最低限の理解が伴わなければ、エンジニアとしてのスキルは積み上がりません。
AIが生成したコードが仕様と合っているかを判断できなければ、結局、何を作っているのか意味不明な状態に陥ります。
「AIがあれば誰でもエンジニアになれる」は本当か
冒頭の問いに戻ります。
「AIがあれば誰でもプログラムを書ける」——これは、半分正しく、半分危険な考え方だと私は思います。
確かに、AIはコードを自動生成し、ドキュメントも書いてくれます。表面上は「形になったもの」を作ることができます。
しかし、プロとして継続的に仕事をするには、AIが何をしているかを理解し、正しいか誤りかを判断し、修正できる知識と経験が不可欠です。
結局は、成果物に対して、責任を取るのは、AIではなく人間なのです。
AIはあくまで強力なアシスタントです。主体はあくまで「考えるエンジニア」でなければなりません。
AIを道具として使いこなすのか、AIに使われるだけになるのか——その差が、これからの時代のエンジニアの明暗を分けると、私は現場で痛感しています。
本記事の体験談が、AIとの正しい向き合い方を考えるきっかけになれば幸いです。


