確か、フリーランスになったばかりの頃のことなので、三、四年前の出来事です。
或る会社と打ち合わせがありました。
時間は、昼下がり。
場所は、新宿です。
新宿までは、私が住んでいる最寄りからは、それほど遠くはありません。
大体の時間を見積もって、路線検索アプリを使うまでもなく感覚で、家を出ました。
JR線で、もうすぐ新宿駅に到着する旨の車内アナウンスが流れた時、
腕時計を見やると、思ったよりも早く着いてしまいました。
打ち合わせ場所は、駅から徒歩で至近です。
かと言って、喫茶店に入って時間を潰すほどの時間はありません。
午後イチの新宿駅のホームは、
相変わらず、人が多かったですが、
さすがに、朝の通勤時の混雑ほどではありませんでした。
ホームのベンチに腰掛けて、新聞を読んで時間を潰すことにしました。
(この頃は、紙の新聞を読んでいました。)
活字を目で舐めていると、白昼に、怒号が聞こえました。
何事か。
会社の役職者然とした、サラリーマン風のオジサンと、駅員が対峙していました。
激昂しているオジサンを、駅員がなだめている、
そんな様子でした。
よく見ると、隣に、学生風の若者も立っています。
私は、新聞の隙間から、現場をそっと見ました。
どうやら、
オジサンと学生が、
席の取り合いを繰り広げて、トラブルに発展したようでした。
オジサンは、怒りが収まらない様子です。
そして、次の科白に私は、耳を疑いました。
「あの端の席は、俺の家だ。俺の家に、勝手に座ろうとしたこいつは不法侵入に当たるぞ。法的措置に出てやるぞ」
私は、これを聞いた瞬間、酔っ払っているのかと思いました。
しかしそんな感じは、ありませんでした。
要するに、これを、真剣に言っていました。。
嗚呼。。
学生は、呆れ顔でした。
駅員は、
「車内はみなさんの場所です。あなたの家ではありませんよ」
と、これも真剣に答えていました。
駅員の仕事は、大変な仕事だと、思いました。
「端の席は、俺の家なんだ」
「あなたの家ではありませんよ」
繰り返します。
オジサンは、酒など入っている様子もなく、至って真剣でした。
凄いものを見ました。
時間も時間なので、
私は、打合せに向かうわけですが、打合せは、40分ほどで終わりました。
非常に有意義な打合せでした。
打合せ内容を、頭の中で反芻しながら、足は、先ほどのホームに戻って来ていました。
すると、思いもよらないことがありました。
1時間前のあの光景が、1時間経った後も、繰り広げられていました。
オジサンと駅員が対峙していました。
もしかしたら、対峙している駅員は、別の方だったかもしれません。
それと、学生がいなくなっていました。
「だからぁ、端の席は、俺の家なんだよ。分からないのか」
「いえ、みなさんの席ですよ」
閉口
ただただ、閉口です。
なんか、、
対応されていた駅員の方、
お疲れ様です。
尊敬いたします。
変な言い方かもしれませんが、
フリーランスとは、このようなことをしない生き方なんだろうな、
と思いました。
これは、良い意味でも悪い意味でもなく。
もし、駅員がAIだったら、それでも、このオジサンは、同じ主張をし続けられるのかな。